猫のいない生活
2021年9月。
20年一緒に暮らした猫のもじお君が死んでしまった。
ここ一年くらい足腰がめっきり弱くなってしまっていた。足腰が弱ると後ろ足が立ち上がれなくなる。必然的に飛び上がったり、大きな段差を乗り越える事が出来なくなった。我が家では猫のためのバリアフリーに尽力した。
猫用トイレをまたぐ事が出来なくなった時に、ペット用トイレシートに切り替えた。
家の中の階段の上り下りが出来なくなり、ソファに乗れなくなり、少しずつ衰えていった。
床に置ける猫用布団を作ってあげたら、いつもそこで寝ていた。
ある日私は遅い時間に帰宅した。
猫は床の上で横になっていた。床に寝そべる事は頻繁にあり、いつもの光景であったが、その日は何かが違っていた。
横たわる猫の周りが水浸しになっていた。お漏らしだった。
びっくりして毛皮を拭いて、ペットシートを敷いた猫布団に寝かせてあげた。もう完全に後ろ足で立ち上がる事は出来なさそうだった。
口もとにしっとり系のエサを持っていくと美味しそうに食べた。水もピチャピチャと飲んだ。
寝たきりになるのかなと思っていた。
いつものように朝が来た。
私が起きると猫も顔を少し上げた。
いつもの朝の生活音がカタカタするなか、横たわるもじお君の呼吸が顎でする呼吸に変わっていた。眠っているような形で顎だけが動いている。
30分くらい経ったであろうか。
顎の動きが止まった。
さようならの時間がとうとう来た事がわかった。
実感がわかなかった。
あれから3ヶ月。
少しずつ静かで深い悲しみを、私は感じるようになった。
静かに過ごしたい時には、久しぶりにあの短編小説集を読もう。